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「何がおかしい」
武将が問うた。
男はなお笑っていたが、
「たかが鬼ごときを、そのように崇めてはなりませぬ」
そう言うと笑うのを止め、武将を見据えた。
「鬼が男の恋敵を殺したわけではございませぬ。
ただ、鬼は知っていたのでございます」
「どういうことじゃ?何を知っていた?」
「男の恋敵である武将の名が、例の死んだ者の名が記されている帳面に書かれてあることを、でございます」
武将はすぐには言葉を返せなかった。
「恋敵は、男の願いにかかわらず、死ぬことになっていたのでございます」
「ううむ」
「それでも、さような鬼に会いたいと申されるのでございますか?」
武将は少しの間の後、うなずいた。
その顔から迷いのようなものは感じられなかった。
「会うてみたいわ。
もう、長くは生きられぬであろうからな」
武将は遠くを見るような顔をした。
「それは、さして難しいことではございませぬよ」
思いもよらぬ言葉に、武将は目を凝らして男を見た。
男は土間に両手を着き、顔を伏せていた。
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