本能寺の夜語り

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すると、はるか上から声がいたしました。 「われは毘沙門天ぞ。 われが守護しておる謙信に近づこうとするおまえは何者じゃ」 それはまるで、天上から雷が響き渡るような音でございました。 床に転がり動けぬままの鬼は、震え上がりました。 謙信公が深く信奉しております毘沙門天といえば、持国天、増長天、広目天とともに四天王に数えらるる仏神でございます。 鬼のような邪悪な存在にとっては、大変に恐ろしい存在でございました。 鬼は何も返すことが出来ませんでした。 言葉を発することが出来ぬのですから、それはもっともなことでございます。 鬼の顔には、隆々と発達した毘沙門天の片足がしっかと乗っておりました。 さらに、その足は絞り込むように鬼の顔を踏みしめました。 骨が次々と砕けたのでしょう。 何とも嫌な音がいたしました。 あまりの痛みのため、そのまま鬼は再び気を失ってしまいました。
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