本能寺の夜語り

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「その男がかけた願とは何なのじゃ?」 武将が問うた。 夜が更けるにつれ、寒気はさらに厳しくなっていたが、武将は男の話に聞き入っていた。 「実はこの男、謙信公の屋敷に住んでおられた、とある武将の奥方に、邪な想いを抱いていたのでございます」 男が言った。 「ほう。それはどう足掻いても報われぬ恋であるな。 そのような立場にありながら、この男はその奥方が手に入るよう願をかけていたのじゃな、身の程もわきまえず」 武将の言葉に、男は首を横に振った。 「残念ながら、この男はそのような品の良い輩ではありませんでした」 「どういうことじゃ?」 「この男は、自分にとっては恋敵である奥方の夫が死ぬよう、毘沙門象に願をかけていたのでございます」 男の言葉に、武将はひどく驚いたような顔をした。 男は続けた。 
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