安全戦隊ゼロサイジャー!

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「うわぁぁ! 助けてくれぇ!」 「ええーん! 怖いよぉ!」 「誰か、誰か来てぇ!」  哀れな市民が逃げ惑う。 「ぐへへ! この街は、オレたちロウサイダーがぶっ壊してやるぜ!」  怪人が手下を引き連れ暴れまわっているのだ! 「待て! ロウサイダーめ! 私たちが相手だ!」    『怪人現る』の知らせを受けて現場へ直行し、颯爽と登場する。 「ぐへ! 貴様らは?!」 「我ら、安全戦隊・ゼロサイジャーだ!」  専用のペイントが施された商用バンから飛び出して、一列に並ぶ。もっと早く来たかったのではあるが、公道は制限速度を遵守しなくてはならない。何しろ我らのモットーは『ゼロ災害』……安全第一でなければならないのだ。 「何て酷い……! 絶対に許さんぞ! 覚悟しろ!」  破壊された街に、怪我をしている人たち! こんな暴挙を許してなるものか。 「行くぞ! 皆んな! 戦闘準備!」  チームの5人で大きく頷く。  リーダーの私が4人の前に立ち、指令書が挟まれたバインダーに目を落とす。 「えー、それでは今日の任務です。本日は通報のありました通り、ロウサイジャー1体及びその手下の排除となっておりますのでよろしくお願いします。また、本日も最高気温が36℃を超えますので、熱中症予防には十分注意してください」  そう、ゼロサイジャーにとって事前の朝礼は不可欠なのだ! 「ではよろしいですか?」  マスク越しにも全員の顔が緊張しているのが伝わってくる。 「はい、ではまずヘルメットから! ヘルメットの傷、破損は無いか? 視界は確保されているか? 有効期限は過ぎてないか?!」 「ヘルメットの傷、破損、有効視界、有効期限、ヨシ!」  互いに見比べ、チェックを行う。ヘルメットは敵の攻撃から身を守る重要なアイテム。異常がないか、ちゃんと確認しないと怪我をしてからでは遅い。 「では次にスーツです! スーツの破れ等はないか? 可動範囲は正常か? 指先まで傷はついてないか?!」 「スーツの破れ等、可動範囲、指先まで傷確認、ヨシ!」  昨今の敵は水攻めや電撃での攻撃も繰り出してくる。万が一にもスーツに傷があると大事故に繋がるのだ。 「では武器に行きます! 武器、携行!」  全員で各々の武器を肩に担ぐ。 「武器の破損はないか? 動作に問題はないか! 弾丸の装填は十分か? 刃こぼれ等はないか?!」 「武器の破損、動作確認、弾丸の装填、刃こぼれ等、ヨシ!」 「……おい、ちょっといいか?」  ロウサイダーが途中で声をかけてきた。 「あのー……それ、まだ掛かるのか? 続き、やってていい?」 「うるさい黙れ! 今、大事なところだ!」    そう、こんな大事な事はない。  何しろ昔の私たちは無鉄砲だった。制限速度を無視して現場へ急行し、何の安全確認もせず敵と戦っていた。当然、怪我も多かったし殉職も珍しくなかった。世間からは「キケンジャー」と揶揄されて新規のなり手もなくて困る始末。  とうとう保険会社から「ヒーローさんは保険料の支払い額が多すぎるので」と生命保険を強制解約されてしまった。  こうした状況を改善し、安全に怪人と戦うために組織されたのが「ゼロサイジャー」なのだ! 何が何でも事故を起こさないのが、我らの至上命題と言っていい。 「えー、それから本日のKY(危険予知)事例ですが、『パワーアップ制限時間を、うっかり超過してオーバーヒートしてしまった』です。こうした事態にならないよう、タイマーの数値には十分注意してください。では最後に……」  全員で輪になり、その中心を指で指す。 「本日もご安全に!」 「本日もご安全に、ヨシ!」  うむ、この唱和があってこそのゼロ災害。 「よーし、やるぞ……おや?」  ふと周りを見ると、すでにロウサイダーの姿はなく、街は破壊された後だった。 「くっそぉ……!」  悔しさが滲む。 「何てこった、せめてあと少し通報を早く貰えたら、こんな事にはならなかったというのに!」 「でも、『負け』ではありません!」  ゼロサイ・グリーンクロスが首を振る。 「そうだ! それが証拠に、私たちは誰も怪我をしていない! 連続無災害記録を更新したじゃないか!」  ゼロサイ・イエローブラックが大事な事を教えてくれた。偉いぞ、イエローブラック! 伊達にトラ柄じゃないな! 「うむ、そうだな!」  そうだ、敵はまた倒せばいい。それよりも仲間が全員無事であれば、それでよいのだ。それこそがゼロサイジャー! 「では勝利の凱歌を上げるぞ! 唱和をお願いします。本日もゼロ災で、ヨシ!」 完
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