青い自殺

13/18
前へ
/18ページ
次へ
 老人ホームの通所利用や短期利用を始めるようになってから、祖母は少し元気になっていたが、やがて物事を覚えていられなくなり、排泄の失敗も増え始めて、自分から施設に入りたいと言い出した。  身の回りの物を整理するために駆り出された私に、それで本当に歩けるのか心配になるほど直角に背の折れている祖母が、杖と紫色の巾着を手に言った。 「しろちゃん、大丸いこ」  いいよと言ってから、祖母と二人で行く最後の買い物になるのかなと思った。正直倒れられやしないかと心配で、爆弾を持ち歩くような気持ちになったが、断れば一生後悔するような気がした。忘れないうちに、祖母が施設へ持っていくシルバーカーに、言いつけの通りタンザナイトのネックレスの箱を入れようとしたとき、ふとこれを祖母が着けているところを一度も見たことがなかったことに気づいた。  大丸の一階で祖母はハンカチや靴下を細々と買い、店内の喫茶店で私に抹茶パフェを食べさせた。それから好きなものを選んでいいと言うので、私は忖度の結果本がいいと言った。勉強に関係のあるものを選べば、祖母は驚いて見せながらも必ず喜んだ。  ちょっと高くて買うのを渋っていたジェンダー学の専門書を選んでいると、隣にいた祖母が近い本棚に置いてあったセクシュアリティについての本に顔を近づけていた。私が話していたことを思い出しているのだろうかと思っていると、祖母はぼそりと言った。 「修造さん、私ほんまはな、女の子が好きなんよ」
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加