青い自殺

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 祖父の名で呼ばれた私は、本を持ったまま祖母を見た。彼女はエッセイ漫画の表紙をじっと見ていた。『あたしの彼女が可愛すぎて困ってます!』―― 「修造さんと会うまではずーっと、女の子と付きおうてたんや。修造さんのことも、ほんまはね、女の子を見るみたいには見られん。でもわかってるんや、男の人と結婚するしかないって。子供も欲しかった。だから私、女の子が好きな私を殺した。それが青春の終わりやった」  私は黙るしかなかった。祖母が望まぬ結婚をした先に生み出されたのが自分なのだと思った。一瞬のうちに頭の中で様々な思考が行き交い、祖母が女扱いを嫌がったことと今の話の因果を結び付けそうになって、慌てて打ち消した。性自認と性的指向は別の話だし、性自認と『他者からどのように扱われたいか』もまた別の話だ。  だが考え込んでいる場合ではなかった。祖母の告白は続いている。 「修造さんのことは、とっても良い仲間みたいに思ってる。たまに鬱陶しいこともあるけどな。でも女の子の次に好きやで」  祖母は隣にいる男を見上げた。その目はどこか遠くを見ていた。 「本は決まった? しろちゃん」  彼女の中で、もう夢想と現実は地続きだった。私は今や修造でもあり、史郎でもあった。 「帰る前に二階に寄ってもええかな。おばあちゃん、しろちゃんにお願いがあんねん」
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