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「じゃあ、これ、どうしたの」
それが上手く言えたのなら、私は誕生日に小粒のアメジストの目がはめられた小鳥のブローチをねだっている。
私が答えないので、母の動揺は増していくばかりだった。
「正直に言って。お父さんには内緒にしてあげるから」
なぜ父には言えないのだろう。
なぜ誤魔化していると思われるのだろう。
ただ現象だけを話すのなら、私は綺麗な意匠が好きで、身に着けて常に共にありたいと思うのだった。アクセサリーが似合うような服は探したが、特にワンピースやスカートを身に着けたいという欲求はなく、ひたすらアクセサリーだけに恋をしていた。
同時に私が好きになる子は女の子で、美しくて柔らかそうな女体に触れてみたいという思いも人並みに持っていて、男性を恋愛対象に思うことはなかった。
そんな自分のことがよくわからなかった。自分にもわからないのだから、別の人間である母親にはもっとわかるわけがないだろうと考えていた。
「史郎」
母親の声が涙に濡れ始めたので、私はいたたまれなくなった。
「ばあちゃん家行ってくる」
絞り出すように言うと、足元に置いていたリュックを取って、制服のまま家を出た。
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