青い自殺

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 定期券内の祖母の家に転がり込むと、祖母は母から電話を受けたのか、突然の訪問にも驚いた様子もなく私を迎え入れた。  私は祖母の出してくれた夕食をもそもそと口に運んだ。祖母も静かだった。  食事が終わり、祖母の洗った皿を拭いていると、祖母が落ち着いた声で言った。 「しろちゃんは、心の中が女の子やから、おばあちゃんのネックレスが欲しいゆうたん?」  私の唇が震えた。 「違う」  何もかもが違った。私は女性の心を持つからネックレスが欲しかったわけではない。  祖母のネックレスが綺麗だから、欲しかったのだ。  今思えば、全ての女性が「女性だから」美しいものを好むというのはありえないし失礼な話なのだが、当時の私は本気で「そのへんの女よりも俺のほうがアクセサリーの価値をわかってる」と考えていた。当然のようにアクセサリーを身に付けることのできる女性が、心から羨ましかった。  彼女たちは、許されている。  祖母の皺の寄った薄い皮膚の手が、皿を撫でている。きっと寒色の宝石がついた小ぶりな指輪が似合う。 「違う……」  私がもう一度言うと、祖母はそっけなく「なんやねん、ようわからへん」と言った。  私の頭に血が上った。
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