一、裏切り

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 この戦は負け戦になる。オディーリアにはそんな予感があった。  イリムがいま相手にしているのは、北の新興国ナルエフだ。イリムは「歴史もなにもない辺境の蛮族だ。戦にもならないだろう」と豪語していたが、勢いのある振興国家が恐ろしいことは歴史が証明している。  実際、宿営地に戻ってくる兵には重症者が多く、負傷していない者も疲弊しきった顔をしていた。  歌声を捧げ続けるオディーリアにも疲れが見えはじめていた。 小さな砂塵を巻き上げて、オディーリアの元に数騎の馬が駆けてくる。 「あなた達……イリムはどうしたの?」 馬から飛び降りオディーリアの前に立ったのは、見知った顔だった。イリムを守る精鋭兵だ。  彼らはオディーリアを見て、ほんの一瞬表情を曇らせたが、次の瞬間には彼女に飛びかかりその身体を拘束した。 「な、なにをっ」 「俺達を恨むなよ」 「あぁ。聖女の存在はありがたいが、王太子の命には代えられない」  どういうことなのか。オディーリアは説明を求めたかったが、彼らのうちのひとりにみぞおちを蹴りあげられ、とても言葉を発することはできなかった。  男は、地面に倒れこみ意識を失いかけていたオディーリアの髪を乱暴につかむと無理やり顔をあげさせた。 「とはいえ、ナルエフに〈白い声〉は渡せないしな」
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