九、自覚

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 とはいえ、実力以外の暗黙のルールのようなものは存在していた。たとえば、生母の身分が低すぎる王子が後継者に指名されることはほぼない。  レナートの父、現国王陛下には12 人もの妃がいる。側室は国王が気に入りさえすればなれてしまうので、8人の王子のうち5人はこの暗黙のルールにひっかかることになる。  最も血統がよいのは、正妻の産んだ唯一の子かつ第一王子でもあるバハルだが、彼は生まれつき身体が弱く王位を継ぐのは難しいだろうと言われている。   「まぁ……順当にクリストフが継げばいいんじゃないか?」  母親の身分、健康な身体と王となるに足りる知性。これらの条件が揃っているのは第二王子であるクリストフとレナートだけだ。  次期国王はふたりのうちのどちらかだろうと目されている。  その事実はレナートも認識してはいるが……。 「俺は生涯、軍人でいるのが性に合ってるように思うんだがなぁ」  彼はあまり王位にこだわりがなかった。ハッシュはそれを歯がゆく思っている。 「クリストフ殿下をどうこう言う気はありませんが、ナルエフのためを思うなら殿下が王になるべきです」  ハッシュが自分を高く買ってくれていることは嬉しく思うのだが、その意見に素直にうなずく気にはどうしてもなれなかった。
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