九、自覚

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「……お前は知っているだろう。俺はなににも執着しない人生を送りたいんだ」  理想や野心は執着に繋がる。レナートはそれがどうしても嫌なのだ。だが、王になるにはそれらが必要であることも知っている。  ハッシュは悔しそうに、唇を噛んだ。 「では、私やマイトにも執着はしていないんですね? もちろん、あの娘にも?」 「……相変わらず、嫌なところをついてくるな。お前は」  レナートの脳裏にオディーリアのはにかむような笑顔が浮かぶ。  ハッシュの指摘は腹が立つほどに的確だ。  なににも執着したくない。そう言いながらも、やはりレナートにも大切なものはある。ハッシュやマイトの代わりはいないし、オディーリアも……もはや手放すことなど考えられなくなっていた。  「それと王位とは話が別だ」  レナートは無理やり話を終わらせたが、ハッシュもそれ以上しつこく説得しようとはしてこなかった。  彼は知っているからだ。レナートが執着を嫌う理由を。 「クリストフがなぁ……」  レナートは思わずぼやいた。彼が信頼のおける人物なら、レナートが悩むこともないしハッシュだって納得したはずなのだ。  腹違いとはいえ血のつながった兄ではあるが、クリストフは信用できない男だった。頭の切れる男なのだが、利己的で軽薄なところがあった。王の器かと問われると、疑問が残る人物だ。
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