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「……お前は知っているだろう。俺はなににも執着しない人生を送りたいんだ」
理想や野心は執着に繋がる。レナートはそれがどうしても嫌なのだ。だが、王になるにはそれらが必要であることも知っている。
ハッシュは悔しそうに、唇を噛んだ。
「では、私やマイトにも執着はしていないんですね? もちろん、あの娘にも?」
「……相変わらず、嫌なところをついてくるな。お前は」
レナートの脳裏にオディーリアのはにかむような笑顔が浮かぶ。
ハッシュの指摘は腹が立つほどに的確だ。
なににも執着したくない。そう言いながらも、やはりレナートにも大切なものはある。ハッシュやマイトの代わりはいないし、オディーリアも……もはや手放すことなど考えられなくなっていた。
「それと王位とは話が別だ」
レナートは無理やり話を終わらせたが、ハッシュもそれ以上しつこく説得しようとはしてこなかった。
彼は知っているからだ。レナートが執着を嫌う理由を。
「クリストフがなぁ……」
レナートは思わずぼやいた。彼が信頼のおける人物なら、レナートが悩むこともないしハッシュだって納得したはずなのだ。
腹違いとはいえ血のつながった兄ではあるが、クリストフは信用できない男だった。頭の切れる男なのだが、利己的で軽薄なところがあった。王の器かと問われると、疑問が残る人物だ。
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