第一幕 紅《くれない》の再会、別れと出会い

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 背筋を伸ばした少女の背丈は、フィオよりもほんの少し低かった。 「こっちも訊きたい。何で、セフィの遺体を隠す? さっきウチの親父(おやじ)に言ってたな。ここは今、立ち入り禁止だって」 「……そう……だけど……あの(かた)、お父様?」  上がり(かまち)に立って、こちらのやり取りを見守る養父を、少女が指さす。 「養父だけどな。それより訊いたことに答えろよ。何でセフィの遺体を隠してるんだ。まさか、あんたが殺したのか?」 「違うわ!」 「じゃあ、何で隠すんだよ」  少女は、今度は泣き出しそうに顔を歪める。何度も、何か言おうと唇を開き掛けては閉じる動作を繰り返し、そっと息を吐いてセフィの横たわる寝台の端へ腰を落とした。  彼女の漆黒の毛先が、その動きに釣られてフワリと舞う。  俯いて視線を泳がせていた彼女は、やがて吐息と共に言った。 「……まだ、この子が死んだことを、宮廷に知られたくないの」 「どういう意味だよ」  宮廷? と続ける前に、少女が顔を上げた。 「その前に、確認させて。あんた、この子の弟だって言ったわね」 「ああ。双子のな。この顔、見たクセに疑うのか?」  自分で言うのも何だが、この顔はセフィと瓜二つだ。いくら双子でも、性別が違えば性差くらい出そうなものだが、セフィとフィオの場合は体つきまでよく似ていた。  体つきに関しては、あくまで八歳の頃までのことだと思っていたけれど、今も変わっていないようだというのはたった今確認した。  ここまで似ていると大抵、双子のと間違われる。フィオは男装なのに、だ。個人的には少々へこむが、物心付く前からのことで、もう慣れた。 「まさか」  そんなフィオの心情など、もちろん知らない少女は、一つ肩を竦めると、改めてフィオを見上げた。 「むしろ、幸運だと思ったのよ」 「何?」  眉根を寄せるフィオに視線を向けた少女は、真剣な面持ちでフィオを見つめた。 「あんた、として宮殿に入る気、ない?」
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