第二幕 彼女の誘《いざな》い

1/9
前へ
/166ページ
次へ

第二幕 彼女の誘《いざな》い

として、宮殿に入る気、ない?」 「……はい?」  フィオは、思いっ切り眉根を寄せて首を傾げた。一瞬、悲しみのあまり耳がおかしくなったかと錯覚した。 「……あー……ちょっと待て」  軽く目眩までした気がして、片掌に顔を埋める。 「……今……って言ったか?」  いくら何でも――自分が女顔なのは百も承知だが、いくら何でもトンデモ発言だ。しかし、少女は真面目な声で「そう」と答えた。 「正確には、セフィとして」  ――セフィとして。  彼女の言葉を脳裏で繰り返して、掌の中で目を(しばたた)かせる。そして、ゆっくりと顔を上げ、少女を見つめ返した。  その黒い瞳は、恐ろしいほど真剣な色を帯びている。 「……つまり、セフィに成り済ませってことか?」 「そう」 「……あんた、何考えてる?」 「もちろん、セフィを殺した犯人を炙り出すことよ」  フィオは、瞬時の沈黙を挟んで口を(ひら)いた。 「……あんた、詳しいところ知ってそうだな。教えて貰えるのか?」  だが、次の少女の言葉は、明後日のものだった。 「白紗琅(ペク・サラン)」 「は?」  思わず、また間抜けな声を返してしまう。けれど、少女は意に介した様子もなく、立ち上がりながら続けた。 「あたしの名前よ。いい加減『あんた』呼ばわりもやめて欲しくてね。で、名前は?」  腰に手を当てた少女は、小首を傾げるようにしてフィオを見上げる。いきなり話が飛んだように思え、程よく脳内が白くなった。  相手の言ったことがやっと染み込んでから、フィオも答える。 「……フィオ。元稀梧(ウォン・フィオ)だ」 「りょーかい。長くなりそうだから、移動しましょう。解決まで彼女の遺体はここに置いておくし、滅多なことでは人を近付けないように(はか)らってあるから安心して。――もっとも、は何でか無条件通過だったみたいだけど?」  サランと名乗った少女が、チラリと養父のほうへ視線をやる。養父の表情は、逆光でよく見えない。
/166ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加