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第二幕 彼女の誘《いざな》い
「女官として、宮殿に入る気、ない?」
「……はい?」
フィオは、思いっ切り眉根を寄せて首を傾げた。一瞬、悲しみのあまり耳がおかしくなったかと錯覚した。
「……あー……ちょっと待て」
軽く目眩までした気がして、片掌に顔を埋める。
「……今……女官としてって言ったか?」
いくら何でも――自分が女顔なのは百も承知だが、いくら何でもトンデモ発言だ。しかし、少女は真面目な声で「そう」と答えた。
「正確には、セフィとして」
――セフィとして。
彼女の言葉を脳裏で繰り返して、掌の中で目を瞬かせる。そして、ゆっくりと顔を上げ、少女を見つめ返した。
その黒い瞳は、恐ろしいほど真剣な色を帯びている。
「……つまり、セフィに成り済ませってことか?」
「そう」
「……あんた、何考えてる?」
「もちろん、セフィを殺した犯人を炙り出すことよ」
フィオは、瞬時の沈黙を挟んで口を開いた。
「……あんた、詳しいところ知ってそうだな。教えて貰えるのか?」
だが、次の少女の言葉は、明後日のものだった。
「白紗琅」
「は?」
思わず、また間抜けな声を返してしまう。けれど、少女は意に介した様子もなく、立ち上がりながら続けた。
「あたしの名前よ。いい加減『あんた』呼ばわりもやめて欲しくてね。で、名前は?」
腰に手を当てた少女は、小首を傾げるようにしてフィオを見上げる。いきなり話が飛んだように思え、程よく脳内が白くなった。
相手の言ったことがやっと染み込んでから、フィオも答える。
「……フィオ。元稀梧だ」
「りょーかい。長くなりそうだから、移動しましょう。解決まで彼女の遺体はここに置いておくし、滅多なことでは人を近付けないように計らってあるから安心して。――もっとも、おじさまは何でか無条件通過だったみたいだけど?」
サランと名乗った少女が、チラリと養父のほうへ視線をやる。養父の表情は、逆光でよく見えない。
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