第二幕 彼女の誘《いざな》い

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「おう、サランじゃねぇか。どしたい」 「ちょっと母屋(おもや)借りたいんだけど」  サランが言うと、店の主人らしい男は、フィオに目を留め、次いでその目を(みは)る。 「……おい、まさか……!?」 「ああ、違うわ、あの子じゃないの」  慌てたようにサランは両手を振ると、「じゃ、断りは入れたから!」と言ってフィオを促し、きびすを返した。  市場街を外れ、店の裏手に回ると、どうやらそこが母屋らしかった。 「お邪魔しまぁす」  勝手知ったる他人の家というやつなのだろう。誰にともなく宣言して、サランは沓脱石(くつぬぎいし)に靴を脱ぐと、母屋に上がり込んだ。  彼女に倣って、フィオも靴を脱いで縁側へ上がる。 「あ、お邪魔します」  サランの声を聞いたのか、顔を覗かせた女性に、申し訳程度の挨拶をしながら、フィオはそそくさとサランのあとを追った。 「――さてと」  部屋に入って扉を閉じると、サランはクルリとフィオのほうを振り返る。その動きに従って、彼女の身に着けた木綿のチマが、花弁のようにフワリと舞った。  室内の、上座でも下座でもない場所へ腰を下ろしたサランの向かいへ、フィオも腰に差していた刀を鞘ごと引き抜きながら腰を落とす。 「……あのおっさんも、もしかしてセフィのこと知ってんのか」 「まあね。あの子も、何だかんだで結構顔広いから」  サランは言って、肩を竦めた。 「この一件が落着するまでは気を付けるのね。男装してるからって誤魔化し利かないくらい似てるもの」 「男装って……」  フィオは反射で片手で自身の頬に触れる。 「……女顔で悪かったなっ。俺はこのカッコが本来の姿だってのに」 「今回はそれが助かるわね。女装すれば完璧にセフィに成り済ませるから」  桜の花弁の端が、その優雅さに似合わず不敵に吊り上がった。 「おじさんの反応で安心したわ。正直、ちょっと不安だったの」 「見破られないかってことか?」 「うん。だってあたしには別人だって分かるからね、残念だけど」 「……ふん。両親以外ではあんただけだな、俺らの見分けが付くのは」
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