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吐き捨てるように言うと、サランは真顔になった。
「……本当の、ご両親ってこと?」
「ああ。八年前に父親は死んだ。母親は……行方不明だ。どうなったか分からない」
目を伏せて簡単に返し、サランを見つめ返す。
「その時、セフィとも生き別れたんだ。だからこの八年の間、あいつがどうしてたか全然知らねぇ。死んだって知ったのも、ついさっきだからな」
冷え切ったセフィの体温が蘇り掛けて、一瞬キツく目を瞑る。ほんの少し前にあれだけ泣いて、その名残のようにまだ頭痛がするというのに、油断するとまた涙が出そうだ。
一つ深呼吸して、感傷を無理矢理脳内から締め出す。
「……あいつは、宮廷にいたのか。どうして女官に?」
目を伏せたまま口を開くと、視界に相手のチマの裾が見えた。
「……全部話すと長くなるんだけど……あの子は承恩尚宮だったの」
「……はあ?」
一瞬、感傷が本当に吹き飛んで、思わず顔を上げる。
「……って、ちょっと待てよ。承恩……って、国王殿下の準側室扱いになるっていう、あれか?」
「そう」
「嘘だろ、何でそんなことに!?」
覚えず床に手を突いて身を乗り出すと、サランは仰け反るように下がりながら、眉根を寄せた。
「嘘って言われても……あんたたち姉弟って、揃って自分の容姿には無頓着なのね」
「どこにでもある顔だろ!」
途端、サランの目がスッ、と冷ややかに細められた。黒目がちの瞳に浮かんでいるのは、あからさまな呆れだ。
「国中の妓生〔遊女〕に……いや、訂正。世界中の女に喧嘩売ってんの?」
「何で売ってることになんだよ、売ってねーよ、いーから質問に答えろ! 何であいつが国王殿下の寵愛なんか受ける羽目になったんだよ!」
彼女の目はますます冷えていく。やがて、深々と俯いた彼女は、聞こえよがしに溜息を吐いてから顔を上げ、フィオの鼻先に人差し指を突き付けた。
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