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「……国一番の妓生も真っ青な美人だって、たった今、この場で自覚なさい。そのあんたとまったく同じ顔のセフィが、好色な王殿下の目に留まって無事でいられるわけないじゃない。おまけに年頃だって、ちょうどお好みの範囲だしね」
「どういう意味だよ」
「不幸な偶然が重なった末のことよ、セフィが殿下の目に留まったのは。セフィはね、元々は半房子だったの。房子って何か知ってる?」
鼻先に突き付けていた指先を下ろしながら、サランが小さく首を傾げた。
「えっと……あれだろ。尚宮の小間使いみたいな……」
ちなみに尚宮とは、品階は正五品で女官の最高位に位置する。本来なら、そこへ到達する頃には三十五歳前後ということが多い地位だ。
余談ながら、王の寵愛を受けて承恩尚宮となると、側室予備軍になれる上に、そこまでの歳月を一足飛びで短縮できる。
「大まかに言うと正解ね」
サランは頷いて続けた。
「その内、半房子は通いで、全房子は住み込みよ。で、セフィは通いの房子だったの」
「要は下働きだろ。それがどうして王の目に留まるんだよ」
「先に第四王子様のお目に留まったのよ。今年で御年十六になられる、桂城君様のね」
「王子様?」
十六、ということは、セフィやフィオとも同い年だ。
「そう。桂城君様とセフィがどうやって出会ったのかまでは、あたしも知らない。でも、二人の仲は睦まじかったと思う。傍目にも眩しいくらいだった」
その様を、どうしてサランが見守る経緯になったのか、フィオには分からない。だが、その日々を思い出していると分かるほど、一瞬サランの表情が和らぐ。
しかし、その表情はすぐに険しくなった。
「でも、去年のある日、桂城君様のご縁談が持ち上がったの。王室の子女は、縁付くのは大抵十歳前後だから、桂城君様の場合は遅すぎたくらいね。王子様の婚姻となれば揀擇令が出たりして結構大掛かりになるから、その前に桂城君様は、セフィとの婚姻を許してもらおうとしたのよ」
揀擇とは、王族の伴侶選考儀式のことだ。
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