第二幕 彼女の誘《いざな》い

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「……国一番の妓生(キセン)も真っ青な美人だって、たった今、この場で自覚なさい。そのあんたとまったく同じ顔のセフィが、好色な王殿下の目に留まって無事でいられるわけないじゃない。おまけに年頃だって、ちょうどお好みの範囲だしね」 「どういう意味だよ」 「不幸な偶然が重なった末のことよ、セフィが殿下の目に留まったのは。セフィはね、元々は半房子(パンバンジャ)だったの。房子(パンジャ)って何か知ってる?」  鼻先に突き付けていた指先を下ろしながら、サランが小さく首を傾げた。 「えっと……あれだろ。尚宮(サングン)の小間使いみたいな……」  ちなみに尚宮とは、品階は正五品(チョンオプム)で女官の最高位に位置する。本来なら、そこへ到達する頃には三十五歳前後ということが多い地位だ。  余談ながら、王の寵愛を受けて承恩(スンウン)尚宮となると、側室予備軍になれる上に、そこまでの歳月を一足飛びで短縮できる。 「大まかに言うと正解ね」  サランは頷いて続けた。 「その内、半房子は通いで、全房子(オンバンジャ)は住み込みよ。で、セフィは通いの房子だったの」 「要は下働きだろ。それがどうして王の目に留まるんだよ」 「先に第四王子様のお目に留まったのよ。今年で御年(おんとし)十六になられる、桂城君(キェソングン)様のね」 「王子様?」  十六、ということは、セフィやフィオとも同い年だ。 「そう。桂城君様とセフィがどうやって出会ったのかまでは、あたしも知らない。でも、二人の仲は(むつ)まじかったと思う。傍目にも眩しいくらいだった」  その様を、どうしてサランが見守る経緯になったのか、フィオには分からない。だが、その日々を思い出していると分かるほど、一瞬サランの表情が(やわ)らぐ。  しかし、その表情はすぐに(けわ)しくなった。 「でも、去年のある日、桂城君様のご縁談が持ち上がったの。王室の子女は、縁付くのは大抵十歳前後だから、桂城君様の場合は遅すぎたくらいね。王子様の婚姻となれば揀擇(カンテク)令が出たりして結構大掛かりになるから、その前に桂城君様は、セフィとの婚姻を許してもらおうとしたのよ」  揀擇(カンテク)とは、王族の伴侶選考儀式のことだ。
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