終幕

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「す、きに、って」  急に言葉がギクシャクと出辛くなった錯覚に陥る。 「や、だなっ。好きにって……そりゃ、好きか嫌いかって二択だったら好きだけどっ、別に恋愛のほうの好きじゃないのにっ」 「姉上」  スンは、やはり静かな表情でサランに目を向けていた。からかわれているような気がしていたが、どうもそうではないらしい。 「別に僕は、姉上の気持ちを推量して押し付ける気はないから誤解しないで聞いて。姉上は今はフィオを、きっとセフィと同列の、たとえば弟みたいな感覚で見ているんだと思うけど……異性として傍にいたいって、そういう気持ちになったなら、自分の気持ち、誤魔化さないほうがいいよ」 「スン……?」  側頭部を掻き回していた手を、ノロノロと下ろす。 「僕、セフィとのことでまだ後悔してることがある。セフィを欲しいって父上に言われた時、父上の前では自分の気持ち、誤魔化してた。父上が欲しいのなら、喜んで譲りますって言わないといけないって……だからその通りにしちゃったんだ。一度はね」  寂しげなその表情には、色々な感情が複雑に混在していた。  悲しみも怒りも、父への嫉妬も、想い人(セフィ)への申し訳なさも―― 「それを、よりによってセフィの前でやらかしたんだ。最低だよ。それはまだ、フィオには言えてないけど……言ったらきっと『最低以下だ』って罵倒されるだろうけど」  自嘲するような笑みが、優しい顔立ちに浮かぶ。 「だから多分、駆け落ちしようってセフィに言った時も、いざ出発って時も、どこかで躊躇(ちゅうちょ)してた。このまま駆け落ちして一緒になっても、その時のことでセフィには心の中で軽蔑され続けるんだろうなって思ったら……そんな半端な気持ちだったんだから、失敗して当たり前だけど」
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