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ちょうどいい機会だった。
(ただ)
心残りは、愛した少年だ。
彼が、セフィの死の報せを受けたら、どんなに悲しむか。立場を逆にすれば、その悲しみは想像も理解もできる。セフィだって、あの少年を失ったら、きっと生きていけない。
けれど、想いの宛のない相手に身体をまさぐられる苦行を思えば、そこから解放される安堵感のほうが、遙かに大きかった。
そして――
(ごめんね……)
八歳の頃生き別れてから、ついに再会を果たすことができなかった、弟の幻影に脳裏で呟く。生まれる前から共にいた、自身と同じ顔を持つ、愛しい片割れ。
セフィを失う彼の嘆きは、誰よりも深いだろうことも分かっている。
でも、もう限界だった。
王の寝所に侍るのが何度目か、最早数える気にもならない。永遠にも等しい拷問に、最近は正気の限界も感じていたのだ。
(申し訳……ございません。桂城君様……)
「セフィ! しっかりするのだ、今医官が参るぞ!」
恋しい男性への別れを邪魔するように、声の主が丸めた身体を抱き起こす。
(放っておいてよ、死ぬ前くらい……)
愛する男性との未来を、永遠に阻んだ存在を、最期に見たモノにしたくない。
相手を突き飛ばすこともできない代わりに、セフィはきつく目を閉じた。
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