第一幕 紅《くれない》の再会、別れと出会い

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第一幕 紅《くれない》の再会、別れと出会い

 何かが聞こえた気がして、ハッと目を開ける。視線だけを左右させると、周囲はまだ薄暗いことが分かった。  喉元が呼吸を忘れてしまったように苦しい。稀梧(フィオ)は、胸元を握り締め、意識して息を吸い込んだ。  やっと空気が肺に送り込まれ、(はず)むような呼吸音が室内に満ちる。 (……夢……?)  肩先で息をしながら、仰向けに寝返りを打つ。視線の先には、見慣れない天井があった。昨日の夕刻、辿り着いたばかりの新居のそれだ。  思い切り駆けたように上がっていた呼吸が、少しずつ普段の速度を取り戻していく。 (……何だったんだ……)  はあっ、と一つ大きく溜息を吐いて、フィオはノロノロと起き上がった。  再度、息を長く吐き出しながら、立てた片膝を抱える。 (……本当に……ただの夢か?)  求めてやまない片割れの――生き別れてからもう八年になる双子の姉の、哀しげな声が聞こえた気がしたが、空耳だったのだろうか。  確かに、自分たちは双子のゆえなのか、感覚が同調することは多かった。  赤子の頃、片方が泣いていれば、それまで機嫌よくしていたもう片方も泣き出したり、などはよくあったらしい。成長してからも、片方が怪我をすれば、元気なもう片方もその部位が痛んだりというようなことは度々(たびたび)あって、それが二人の(あいだ)では当たり前のことだった。だが、それは互いに傍にいた頃の話だ。  離ればなれになってから八年、こういうことは一度もなかったのに。 「……セフィ……?」  試すように一つ、姉の名を呼ぶ。  脳裏に描いた、八歳の頃から変わらぬ幻影が、それに(こた)えることはもちろんなかった。 ***  都では、夜間外出禁止の時間帯というものがある。その解除を民に(しら)せるパルの鐘が鳴るのを聞いたあとも寝付かれず、結局家族が起き出すまで、フィオはまんじりともせずに夜を明かした。  だが、のんびり悶々(もんもん)とする暇はなかった。  朝食が終わると早々に、荷解(にほど)きに追われる新居から、養父である元熾(ウォン・チ)に、なぜか無理矢理引きずり出されるようにして、出掛ける羽目になったからだ。
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