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けれど、鏡像と違って、相手には触ることができる。頬に滑らせた指先に伝わる温度は、信じられないほど冷え切っていた。
思わず息を呑む。直後には、彼女の頬を包むように両掌で触れた。
「……セフィ……起きろよ」
言いながら首筋を滑る掌に触れる体温は、ひたすら冷たい。その温度が、嫌でももう姉が生きていない現実を、フィオに突き付けた。
「嫌だっ……起きろよ! 迎えに来るって……必ず迎えに来るって言ったじゃねぇか、何でッ……!」
否応なく鼻の奥が締め付けるように痛んで、視界が霞む。
唇を食いしばった途端、熱いものが頬を伝った。
(セフィ……セフィ)
無言で、もう息をしていない姉に抱きつく。
噛みしめた唇から、嗚咽が漏れる。養父の目も、気にならなかった。
彼女に落ちた滴が、氷のような彼女を溶かしてくれないか。抱き締め続けたら、温まって息を吹き返さないだろうか。
愚かな、あり得ないことだと分かっていても、願わずにはいられない。
「嫌だ……ッ、セフィ、起きてくれよ、頼むから……!」
あんまりだ。あんまりだ。
もう一度会えると、どんなに先になっても必ずその時が来ると、ずっと信じていたのに、どうして――
いつの間にか、室内に二人きりになっていたのにも気付かず、フィオはセフィの遺体にしがみついて、慟哭した。
***
散々泣き喚く間にどのくらいの時が経ったのか、フィオにはよく分からない。
我に返ったのは、
「――何を考えてるの!?」
という苛立った女性の声が、外から飛び込んで来たからだ。フィオは、反射的に姉にしがみついていた身体を起こし、頬を拭いながら扉のほうへ視線を向けた。
声音は、大人の女性、というには幼い。さりとて、幼女と言うにはやや低い。推測するに、フィオと同年代の、十代半ばくらいの少女だろうか。
「あんなに誰も近付けるなって言ったのに……あんたは誰なの!? 何の権利があってここにいるの!?」
恐らく、扉の前に養父が立っているのだろう。しかし、養父は少女に答えなかった。
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