第一幕 紅《くれない》の再会、別れと出会い

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退()いて。ここは今立ち入り禁止よ」  再度、わずかな沈黙を挟んで、入室の許可を得ることもせず、出し抜けに扉が(ひら)いた。  室内に射し込んだ光は、暗がりに慣れた目には(まぶ)しい。思わず(すが)めた視界の中に入ってきた相手の顔は、逆光ですぐには分からなかった。 「あんたもよ。外へ出て」  目が慣れる(あいだ)に、入ってきた少女と思しき相手は、大股に近付いて来た。少女が暗がりへ入ったことで、やっとその容貌がはっきり見える。  きゅっと引き締まった輪郭に、子猫のような目元。黒目がちの瞳は生き生きと輝いているが、どこか陰がある。ツンと上向いた鼻先の下には、桜の花弁と見紛う唇があった。  漆黒の髪は、側頭部から上半分だけを結っているらしく、艶やかな黒い滝のように肩先に流れている。  彼女は、フィオの背後を先に見たのか、大きな瞳を更に一杯に見開いた。 「ちょっ……何てことしてるの!?」  次いで、突き飛ばすようにフィオを押し退()けた。 「早く出てって! ここに何の用があるのか知らないけど、この遺体のことは他言無用よ!」  言いながら、ろくにこちらを見もせず、セフィの遺体に白布を掛け直す少女には、最早苛立ちしか浮かばない。 「……姉貴なんだけど」 「はあ!?」  他方、彼女も苛立ったままなのだろう。それとも、泣き通した直後の掠れ声だった為、フィオの言葉が聞き取れなかったのか。  半ばドスの利いた声音でこちらを振り向いた少女の形相は、鬼そのものだ。花の(かんばせ)が残念なことになっている。  だが、次の瞬間、彼女はなぜか、どこか唖然とした表情になった。恐らく、初めてまともに見たフィオの顔が、セフィと瓜二つだったからだろう。  しかし、それに構わず、フィオも渋面で続ける。 「俺は彼女の弟なんだよ。ついさっき、セフィが……亡くなったって知った。だから来たんだよ。それがどうして問題なんだ?」  少女は、答えなかった。代わりに、セフィに白布を掛ける為に屈めていた上体を、ユルユルと起こす。
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