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休み明けの月曜日。
会社の前の自販機前で飲み物を買おうとしている上司の宮崎真(ミヤザキマコト)の背中を見つけ「おはようございます」と挨拶をした。
「おー、田村ちゃん、おはよう」
関西出身の田村は35歳で、同級生の妻と五歳になる娘がいる。
奥さんのことは怖いようであまり話題にはしないけれど、娘さんのことは、よく写真を見せて「可愛いやろ」と自慢していた。
「また嫁さん、怒って実家に帰ってもうてなあ」
と、朝からえらいこっちゃな話をされた。
ゴト…と音を立ててペットボトルのコーヒーが取り出し口に出てきた。
「そうなんですか?」
「うん、めっちゃ不自由してんねん。田村ちゃん、お世話しに来てくれへん?」
コーヒーを取り出しながら宮崎が言った。
「なんでやねん」
敦子がエセ関西弁でツッコミを入れると「俺の教育のおかげで、いいツッコミするようになったなあ」と宮崎は満足そうに笑う。
スラリとした長身で、顔も悪くない。
おそらくこの関西弁が宮崎を二枚目でなく、三枚目にしているんだなと敦子は冷静に判断する。
「田村ちゃんも何か飲み」
そう言って宮崎は、自販機に小銭を入れてくれた。
「あ、すいません。ありがとうございます」
敦子は、ホットミルクティーのボタンを押す。
ゴトリ…と取り出し口に出てきた暖かいペットボトルを取り出した。
結婚生活って色々難しいんだな。
それとも家では違う性格なんだろうか。
いや、この人にそんな器用さは無いよねえ……
宮崎と歩きながら敦子は考えた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
敦子の勤める『サクラ❀食品株式会社は、中堅の食品メーカーで、主にレトルト食品を作っている。
食堂では、格安でレトルト食品が食べられるし、たまに新製品の試供品が無料で提供されることもあった。
最近では、長期保存食の分野に特に力を入れていて、全国の市町村に サクラ❀食品の『ホカホカ御膳』や『ホッコリおかずシリーズ』が備蓄されているらしい。
そのお陰で、業績はとびきり良いわけではないが安定はしていた。
営業や開発部門には、若くてピチピチした男性社員が多くいるが、敦子が所属している総務部は、ほとんどが落ち着いた妻帯者で、宮崎でも若手に入る。敦子もすっかりその空気に馴染んでいた。
宮崎の斜め向かいに座り、パソコンを立ち上げ、暖かいミルクティーを飲む。
総務部 経理課は、宮崎が課長。
以下、敦子の前の席には、もうすぐ定年になる野村誠(ノムラマコト)64歳。
隣は今どき女子、倉田(クラタ)メイ、24歳。
「田村さん、また課長と同伴出勤か」
ワハハ、と笑えないギャグを言って笑う野村に宮崎と二人で苦笑する。
メイは明らかに嫌な顔。
(セクハラオヤジ、ウザ…)と顔に書いてある。
特に刺激は無いけれど、まあまあ良い職場だと思う。
30歳になって、改めて仕事があることに感謝した。
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