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処女で悪いか
「お姉ちゃん、誕生日おめでとう」
両親と妹の奈緒子(ナオコ)がケーキで祝ってくれた。
母親は生真面目なところがあり、律儀にロウソクを30本立ててくれている。
かなりの炎で、ちょっと危険。
敦子は、息を吸い込んで、ふうううう…とロウソクを消す。全部消えなくて、もう一度、ふううう…
目眩がした。
普段、気楽な独り暮らしをしている敦子だが、誕生日くらい帰って来なさいと母親に同情に近いことを言われ、特に予定もないので、週末、実家に戻ってきた。
「ね、来週末さあ、友達んとこ泊まってもいい?」
昔から甘え上手な妹の奈緒子(ナオコ)が、急に言い出した。
その途端、主役は敦子から奈緒子に移っていく。
まあ、敦子とて親から結婚や仕事のことをとやかく聞かれるのも面倒だから、奈緒子に話題がいってくれるほうが助かる。
「そんなこと言って、また彼氏とどっかで泊まるつもりなんでしょ」
奈緒子には、高校1年の時に彼とお泊まりしたのがバレた前科があり、それ以来信用されていない。
大人しい父親は、ただただ悲しそうに眉根をよせた。
「違うって!マジで友達だし!それに私もう21だよ?周りの子達みんなお泊まりしてるよ?」
「彼氏と?」
「うん」
「やっぱり」
奈緒子は、しまった、という顔をした。
「いいじゃん!お姉ちゃんみたいに、30歳にもなって彼氏が居ないより」
そう言うと母親は、シッと言って唇に指を立てた。
「大丈夫だよ。お母さん。私気にしてないし」
敦子は微笑む。
「まったくねえ…敦子と奈緒子を足して割ったらちょうどいいのにねえ…」
また始まった。こればっかり。
「足して割るのは無理だろう」
父親が言う。
「分かってるけどね、お父さん」
「敦子は敦子。奈緒子は奈緒子だ。お父さんは二人とも可愛いよ」
父親が言う。
敦子は少し嬉しくなったが、奈緒子は「キモっ」と声を上げた。
父親は、また悲しそうに眉根を寄せる。
それが田村家の日常だった。
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