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夕食とケーキを食べ終えて、洗面所で歯を磨く。
鏡に映る自分を見るとは無しに眺めた。
肩までの真っ直ぐな黒い髪とべっ甲のメガネ。
友人達には、染めないの?だとかコンタクトにしないの?とよく聞かれた。
けれど敦子は、このスタイルが落ち着いたし、妄想している理想の彼氏は、敦子の中身を好きになってくれることになっているので、問題は無かった。
すいっと手が伸びてきて、ピンクの歯ブラシを奈緒子が取った。
茶色い巻髪が敦子の頬をかすめる。
「お姉ちゃん、身長縮んだ?」
「なっ…わけないでしょ?アンタがデカくなったんじゃないの?」
敦子は、153センチしかないけれど、奈緒子は、160を超えている。
「そっか」
奈緒子は、隣でシャカシャカと歯を磨き始めた。
他のことは、だらしないところのある奈緒子だったが、ちゃんと歯磨きをする習慣だけは、子供の頃からずっと続いていて、欠かすことは無かった。
「おねーちゃんさあ…」
磨きながら、奈緒子が聞いてきた。
「ん?」
「まいでふひふぁったことふぁいの?」
マジで付き合ったこと無いの?と奈緒子が聞いてきた。
「うん」
敦子は、口をゆすいで返事をした。
「ふうん」
しばらく沈黙が続いて、奈緒子が口をゆすいだ。
「じゃあ処女ってこと?」
「え?あ、うん」
家族にそんなことを改めて聞かれ、なんだか照れる。
「ふうん」
もう一度口をゆすぐとタオルで軽く口を拭いて、奈緒子は洗面所から出ていった。
(なんでそんなこと聞くのよ?)
敦子は、少し傷ついている自分の気持ちを持て余す。
ふう…と溜息をついて鏡に映った自分の顔に無理やり笑いかけた。
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