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翌週の土曜日。
敦子は、この前と同じくらいの午後二時に図書館に出掛けた。
図書館の前に行くと、この前の彼はもう入口横のベンチに腰掛けてスマートフォンを弄っていた。
敦子を見つけて「あ」と小さく声を上げる。敦子もペコリと頭を下げた。
敦子は、自然に隣に腰掛け「読みましたよ」と言って本を取り出した。
「でも、ごめん。貴方の感想と私の感想は、全く違うかもしれない」と正直に言った。
「え?どういうこと?」と彼はスマートフォンから目を離して敦子を見た。
敦子は、簡単に内容を話す。
そして「母親と息子の関係性ってそれぞれの家庭で違うし。私は女だからね」
と言った。
「うん…確かにそうかも」と彼は、腕組みをして何か考えている。
しばらく黙っているので、チラッと見ると目を閉じている彼の頬をツツ…と涙が伝った。
(え?なんで?)
敦子は、驚いた。
「あの…」
敦子は、持っていたハンカチを彼に差し出す。
彼は「あ、すいません」と言ってハンカチを受け取り、涙を拭った。
「なんで、教授が俺にこの本を勧めたのか分かりました」
彼は少し清々しいような顔をした。
「俺んち昨年、お袋が亡くなったんですよ」
彼は、もう一度、ハンカチで涙を押さえる。
「そうなんだ…」
敦子は、何と言っていいのか分からなくなった。
「俺、ホントに情けない息子で。お袋に迷惑ばっかかけてたから」
彼は、下を向いて言った。
「そっか……。でも、きっとお母さんは、そんな風には思ってなかったんじゃないかな。こんな立派に育ってるんだし」と敦子は言った。
言ってから「あ、ごめん。親になったこともないくせにね」と敦子は下を向いた。
「いやそんなことは…」と彼は言い「やっぱり読もうかな、俺も」
と言って、本の表紙を眺めた。
「うん、そうしなよ。今、返却してくるから、そのあと借りれば?」
そう言って敦子が立ち上がると、彼も一緒に立ち上がった。
返却した本をもう一度受け取り、貸し出機に持っていく。
敦子もなんとなくそれに付き合った。
「久保涼也(クボリョウヤ)」と貸出カードに書かれている。
「久保くんって言うんだね」
不意に目に入って敦子は言った。
「ああ、うん。お姉さんは?」
涼也が敦子を見た。
「あ、田村です」
「田村さん、ありがとう」
涼也はそう言って、敦子に綺麗な笑顔を見せてくれた。
敦子はその笑顔にいつの間にか恋をしてしまっていた…
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