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七花は俯き、頭の中を駆け巡る黒歴史に耐えた。
「? どうした?」
「何でもない……」
不思議そうに首を傾ける奏に七花は言い、紅茶を飲む。そうして、そっと溜息を吐いた。
再会して、仲直りをして――奏に頼りきっていたあの頃とは違う、対等な関係になれたら良いと思っていたけれど……。
もし自分の存在が、奏の人生の邪魔になる時がきたら、今度は穏便に離れたい。昔のような別れ方はしたくない。
数年振りに連絡を取って、普通に話せる関係でいられたら、それで充分だ。
奏は『他人』なのだから。
それ以上、何を望めるというのだ……。
七花が奏と一定の距離は保っていたいと思うのは、社内の空気を乱したくないという理由もあるが、もしまた離れるときがきても、動揺しない自分でいたいからだ。
近付き過ぎないように、他人の距離を超えていないか――いつも考えている。
問題は奏だ。
奏はあの頃と変わらず、優しい。昔のことに罪悪感を感じているせいもあるのだろう、七花を甘やかしたいという思いが伝わってくる。
それが、とても嬉しい。……同時に、そう思ってしまう自分が、怖い。
奏にそう思わせていること事態、私は、奏の邪魔になっているのではないだろうか……。
「――……あのさ、奏」
「ん?」
奏は穏やかに七花を見た。
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