307人が本棚に入れています
本棚に追加
「してるつもりだよ、俺は。他人のフリ。会社では仕事の話しかしていないだろ?」
奏は言った。
表情は穏やかだが、機嫌はよくない。先程まで上機嫌だっただけに、その落差に怯みそうになる。
「だから……その仕事の話の時が、見る人から見れば親しそうに見えるかもしれないから――」
「仕事の話しかしてないのに、そんな風に思う方がおかしい。気にすることないよ」
奏はそう言って、にこりと微笑んだ。
そうして、かちゃり――と持っていたカップを受け皿に戻す。まるでこの話を終わらせる合図のように。
こういう奏は、何度か見たことがある。
穏やかそうに見えて、七花の話を聞く気はない。従わせる気でいる。そして七花は、そんな奏の圧におされて口を噤んでしまう。だが――それは、昔の話だ。
七花は反発するように奏を見据えた。
「気にするよ。ただでさえ奏は目立つんだから。自覚してるくせに!」
最初のコメントを投稿しよう!