縮まらない距離

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「してるつもりだよ、俺は。他人のフリ。会社では仕事の話しかしていないだろ?」 奏は言った。 表情は穏やかだが、機嫌はよくない。先程まで上機嫌だっただけに、その落差に怯みそうになる。 「だから……その仕事の話の時が、見る人から見れば親しそうに見えるかもしれないから――」 「仕事の話しかしてないのに、そんな風に思う方がおかしい。気にすることないよ」 奏はそう言って、にこりと微笑んだ。 そうして、かちゃり――と持っていたカップを受け皿に戻す。まるでこの話を終わらせる合図のように。 こういう奏は、何度か見たことがある。 穏やかそうに見えて、七花の話を聞く気はない。従わせる気でいる。そして七花は、そんな奏の圧におされて口を噤んでしまう。だが――それは、昔の話だ。 七花は反発するように奏を見据えた。 「気にするよ。ただでさえ奏は目立つんだから。自覚してるくせに!」
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