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奏は目を瞬いた。語気を強めた七花に驚いたらしい。そうして、呆れたように呟く。
「そんな大袈裟な……」
「大袈裟じゃないよ。奏は格好良いし優しいし仕事できるし、四季宮さんと友達だってことも知ってる人は知ってるし――奏のこと狙ってる人、沢山いるんだよ。注目されてるんだよ。昔からそうだったじゃん!」
奏は数秒固まったあと、手で口元を抑えながら七花から目を逸らした。
真剣に聞く気がないのだろうか、七花はむっとして、さらに続ける。
「奏と話してると、私まで注目されるんだよ。仕事の話しかしてなくても、私と奏が元兄妹で、それを隠してるのは事実でしょう。そういう空気って、伝わるんだよ。特に女の人は鋭いし――それに奏、私に話し掛けるときやたらニコニコしてるし……」
「……してる? ニコニコ」
「してる」
「嘘だろ……」
断言すると、奏は片手で顔を覆い、項垂れた。
耳が赤くなっている。
……まさかとは思うが、照れているのだろうか? 照れる要素があっただろうか?
奏は昔から容姿が良く文武両道で、周囲からちやほやされ、女性に人気があることも自覚していたし、向けられる視線を当然のように受け入れていたではないか。
七花に対する態度が甘いこともそうだ。今更そんなことを指摘されたからと言って、何を恥ずかしがることがあるのか。
七花は半ば呆れた気持ちになりながら、奏を見つめた。
「だから、会社ではもっと距離を取って欲しい。……そのうち、私と付き合ってるとか噂されるかもしれないし――そうなったら、奏だって困るでしょ?」
七花は問い掛けた。
答えはいらなかった。分かり切っている答えを聞く必要はない。
話を終えた七花はティーカップを手に取り、口を付ける。
「――……困らない」
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