307人が本棚に入れています
本棚に追加
七花は視線を上げ、奏を見た。
奏は七花を見つめた。その眼差しに、身体が強張るのが分かった。
七花はぎこちなく、口の中にある紅茶を飲み下す。
「困らないよ、俺は」
奏は言った。
そうして、僅かに瞳を伏せた。
窓から差し込む陽に照らされた奏の髪は、色素の薄い七花の髪と、同じ色をしていた。
胸の奥が、締め付けられるように痛んだ。
七花には分からない。奏が何を言いたいのか。
――嘘。
心の裏側で、軽蔑の込もった声がする。
ほんとうは、分かっている。
この表情を、この空間を、自分は知っている。
それでも――考えないでいたい。
分からないままでいたい。
分からないまま……奏に。奏だけには、受け入れられたい。
「わ――私は、困る」
沈黙が意味を持つ前に、七花は言った。
奏は小さな微笑を零したあと、カップを手に取り、何でもないことのように答えた。
「だよな。知ってる」
最初のコメントを投稿しよう!