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4.
柴本光義は便利屋だ。
法に違反しない範囲で、人々の頼み事を有償で解決してゆく。
買い物や家事の代行、あるいはカギの壊れたドアの修理。離れて暮らす家族の消息確認に、場合によっては相談相手を引き受けることもあるようだ。
庭で植木の手入れをしていたかと思えば、人手の足りない飲食店で手伝いをしていたりもする。
ルームシェアをはじめてそろそろ4ヶ月。この家の家主だけれど、海外で仕事をしていて殆ど家には帰らない眞壁氏に頼まれるまま、日々の様子を伝えるのは、もはや生活の一部となりつつある。
ペットの捜索。それが今回、柴本のもとに舞い込んだ依頼だった。よくある話だけれど、それが危険な動物となれば話は別だ。
**********
ことの始まりは、昨日の夕方にまで溯る。
「それで、逃げ出した『ピーちゃん』というのは――」
「はい、この子ですゥ」
依頼人である降瀬まりんは、ぱっちりとした目元にハンカチをあてがい、洟をすすりながら端末の画面を柴本に見せた。
SNSに投稿したときに映えるよう角度を絶妙に調整し、過剰なデコレーションを施した自撮り画像の中で、輝くような白い毛並みの彼女が膝に抱いているのが、ピーちゃんなる名のペットらしい。
彼女もまた柴本と同じ犬狼族の獣人で、緩くウェーブのかかった白い毛並みとつぶらな瞳が、一瞬だけ愛らしく見えたと後に柴本は語っている。
こんなにデコらなくったって充分に魅力的ですよと言いかけた柴本だったが、彼女が膝に抱く生き物を見て言葉を失った。
ニワトリの頭に大きなトカゲを思わせる胴体と長い尻尾。背には1対、飛べるようには到底見えない小さな翼がついている。
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