コカトリス狂騒曲

６．

　なのに、話に熱が入ると段々マナーが悪くなる。とはいえ、別に今は高級料亭で贅を凝らした料理に舌鼓を打っている訳ではないのだから、指摘をする必要はない。自分の価値観を押し付け過ぎないことが同居生活を長く円満にする秘訣だとＳＮＳにも大勢が書いている。

「酒に強いヤツもいれば弱いヤツもいる。そいえばパクチーが旨いと思うか不味いと感じるかも遺伝によるらしいな。コカトリスの視線の効きやすさもそういう類じゃねーかって、ネットに出てたぜ」

　ネットの情報の信憑性はさておいて、そんな感じの話はわたしも聞いたことがある。

　コカトリス以外にも、視線を合わせた生物をてんかん発作に似た状態にさせる生物はメドゥーサやバジリスク、カトプレバスなどが知られていて――いずれの種も人類の活動の影響で自然化では絶滅に瀕している――おそらくは似たような仕組みが備わっていると考えられているようだ。

　彼らが一体どうやって目の前の生物を『石に変える』能力を発揮しているのかは現在でも謎とされているが、犠牲者の脳内で膨大な電気信号が無秩序に発生し、それがてんかん発作を引き起こさせていることが解明されている。

　神経細胞のネットワークの発達具合は個人差があって、『石化の視線』の効き具合にも関係があるとも言われている。なお、石化の視線の効きが悪い人には変わり者が多いと言われていて、降瀬まりんについて話を聞く限り、根も葉もない噂とは言い切れないような気がしないでもない。