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「よしっ!」  進み始めてすぐ、予想通りのものが目の前に現れた。  ニワトリと大型のトカゲか何かを混ぜ合わせたような奇妙な姿――コカトリスである。  音の主は、柴本が近づいても微動だにせず、ある一点を凝視していた。固まったように動かないコカトリスの視線の数メートル先に、きらりと光るものがあった。鏡だ。  柴本はそれを――もっと具体的に言うならば、鏡に映るコカトリスの目を見ないように気をつけながら、そっと近づいて、目の詰んだ黒い布袋をその頭に被せた。  それから、袋の口にある紐を窒息しない程度に締めてから、まだ硬直したまま動こうとしない体を抱き上げた。 「うへぇ」  その何とも言えない感触に、柴本は全身の赤茶の被毛を総毛立たせた。  今すぐ投げ捨てたい衝動に駆られたが、便利屋である柴本にとっては大事なメシの種。依頼人にとっては『ピーちゃん』なる可愛らしい名で呼び、溺愛してやまない大事なペット――否、家族なのだ。    意気揚々とは言い切れない気分のまま、柴本は下生えや枯れ枝を踏みしめ、雑木林を後にした。  コカトリスの体の後ろ半分、大きなトカゲのような部分のぶにょっとした触り心地は大層気持ち悪かったと、後に柴本は語っている。
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