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 数時間ほど前、そんな大冒険が繰り広げられていたとは知らず、わたしは枕元に置いた端末がやかましく鳴るのを握り締めた。  振動し続けるアラームを消し、眠い目を擦りながら時刻表示を見る。そろそろ起きなければ遅刻してしまう。  つい中だるみしてしまう水曜の朝。ぼんやりとした頭のまま起きてカーテンを開ける。眩しい朝日を浴びて頭が少しずつ目覚めるけれど、だからといって勤労意欲が湧いてきたりする訳ではない。  同居人の柴本がよたよたと帰ってきたのは、身支度を調えて家を出ようとしたその時だった。  直立二足歩行の柴犬のような体のあちこちに木の枝や枯れ枝をくっつけて、服は泥だらけ。つぶらだけれど眼光鋭い三白眼は、今は眠いのかショボショボと情けなく細められている。  ゆうべは おたのしみでしたね。  わたしが生まれるより前にリリースされたコンピューターゲームの有名なセリフが思い浮かぶ。  どう見ても、助け出した姫君と情熱的な夜を過ごしたようには見えないが。  大丈夫? ブラッシングする?  出勤時刻が迫る中、急な有給が承認されるかどうか。ついでに申請理由の急病を何に設定しようか思考を巡らせたところで 「ほら、さっさと行けよ。遅刻するだろ?」  ずる休みの目論見は、あっさり打ち砕かれた。 「駅まで送っていくか?」  その申し出にわたしは首を横に振る。  彼とルームシェアするこの家は、家賃が安いかわりに最寄りの駅まで徒歩30分以上かかる。  ありがとう。でも今日は自転車で行くよ。そう言うと 「そっか。気をつけて行って来いよ」  今朝の日差しに負けないくらい眩しい笑顔。そのすぐ後に続く大あくびに見送られ、家を出る。  家に帰ってから柴本が聞かせてくれるであろう冒険譚に思いを馳せながら、駅までの道を自転車で走り出す。  ちょっと憂鬱な今日を乗り切るための、良いきっかけが出来た。
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