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3.
平凡で退屈なわたしの毎日など、わざわざ語るに値しない。
そう言うと同居人はいい顔をしないのだけれど、毎日ほぼ同じなのだから仕方がない。平和なのはそれはそれで良いことなのは間違いないが。
ともかく、仕事を終えて帰宅すると、柴本が夕飯の準備を整えてくれていた。遅くなるから先に食べていてと通信アプリで送ったのに、律儀に待ってくれていたらしい。
「ほら、早く食おうぜ。待ちくたびれちまったよ」
わたしが帰ってきたのを見るや、炊きたてのご飯を茶碗に、湯気の立つ味噌汁を椀によそう。
テーブルに並ぶ総菜は、家から自転車で10分くらいの場所にあるスーパー、イノカミマートで買ってきたものだろう。家族経営で小さな店だけど、生鮮食品の質と総菜の味に関してはとても良い。
銀ダラの西京焼き。野菜の天ぷら。ブロッコリーのごま和え。それから海老とパクチーの和え物――嫌いって言ってなかった?
「これ気に入ってただろ? 久々に出てたから買ったんだ。おれ食わねーけど」
口吻の先に軽く皺を寄せ、顔を背けながら言う。
獣人――犬狼族の中でも嗅覚の鋭い彼は、匂いの強い野菜が苦手らしいから、わたしが用意するときには極力食卓に並べないように気をつけている。
「いただきまーす!」
銀ダラの西京焼きとご飯を口に運ぶ。こんがり焦げた甘い味噌と脂の乗った白身魚の組み合わせは最高だ。
食べながら、今朝の出来事について聞く。
「おう、本来は守秘義務ってモンがあるからな。誰にも言うんじゃねーぞ!」
ちょっと高級なビール――麦芽とホップだけが原料――を呷ってから嬉しそうな口ぶりで言う。この時間がたまらなく好きなのだ。
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