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コカトリス。
目を合わせた動物の脳内に過剰な電気信号を発生させ、てんかん発作を引き起こす厄介な能力を持っている。それゆえ、日本では特定動物に指定されているのだ。
「あー、ちょっとお聞きしますがね。ピーちゃん――コカトリスの飼育許可はお済みですか?」
「許可?」
何も知らないことを誤魔化すように、あざとく小首を傾げる降瀬を見て、柴本は眩暈を感じずにはいられなかったという。
「去年ぐらいにィ、サークルの友達が夏休みに海外旅行で買ってきたんですよォ、タマゴをォ。孵したんですけどォ、飼えなくなったって学校に持って来ちゃってェ」
柴本は顔を引きつらせながらも頷いて話の続きを促した。
「男の子たちが殺すしかないとか言い出すからァ、あたしこの子が可愛そうになって泣いちゃったんですゥ」
苛立ちを募らせる柴本など構わず、思い出し泣きとともに降瀬まりんは続けた。
「最初、ちょーっと気持ち悪いなァって思っちゃったんですけどォ。よく見たらとォっても可愛く見えちゃってェ。それでェ、一緒に暮らすことにしたんですゥ」
「へー、すごいっすね」
もうどうでもよいとばかりに適当に相槌を打った柴本だったが、まりんがコカトリスの視線を気にする様子が無いことに気付き
「ちょっと待って降瀬さん、ピーちゃんの目を見たりしませんでしたか?」
「目? 分かってくれますゥ? ほらァ! この丸っこくて可愛い感じとかァ」
「いや、そうじゃなくて。意識が遠のいたり、息が苦しくなったりしたことはないですか?」
「可愛すぎて胸キュン☆ ってことですかァ?」
「あー、もういいです。おれが悪かった」
今度こそ柴本は噛み合わない会話を諦めた。
そして、目の前の女子大生はコカトリスの視線が効かない特殊な体質だと認めてから、その事実を思考の隅に追いやった。
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