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 ホームセンターが閉店時間を迎える20時までに、柴本は準備を終わらせた。  買ったのはPET樹脂製のシートだ。幅50センチくらいで一巻きの長さが2メートル弱、鏡面加工が施してあり、平らな板などに貼り付ければ簡易的な鏡として使える。それを小さく切って、木の板や厚手の段ボールに貼り付けたものを幾つか用意した。  その他にはピーちゃんの好物の茹でたキャベツ。危険さばかりが有名なコカトリスが、実は柔らかい野菜を好むことは柴本も今回はじめて知ったようで、これには少し驚いたようだった。  一旦家に戻って仮眠を取ってから日付が変わった頃、降瀬が住むアパートの裏手に広がる雑木林へと戻った。  路肩に車を停め、冷えて少しだけ湿り気を帯びた夜の空気に鼻を凝らした。  まだ草木の葉と土の匂いが、夜露で湿り気を帯びた風に混じって通り過ぎていった。  コカトリスが逃げ込んだ場所が雑木林だったのは、不幸中の幸いだった。これがもし住宅街や繁華街だったのならば、どうなっていたことか。  想像を巡らしながら、柴本は口中に溜まった唾をごくりと飲み下した。  人口百万人あまりの政令指定都市である河都市(こうとし)だが、降瀬まりんの住む安アパートやピーちゃんが逃げ込んだ雑木林のあたりは中心部から外れており、街中の喧噪とは無縁だ。  明かりといえば道路沿いの街灯から漏れる光と、満月を過ぎてわずかに欠けた月の光くらい。  けれども、生まれついて鋭かった感覚は防衛隊での10年近くにも及ぶ訓練の中で更に研ぎ澄まされていた。  昼間のようにとは行かなくても、それでも的確にコカトリスが残した匂いを辿ることが出来た。そうしながら、用意しておいた即席の鏡と茹でたキャベツを所々に配置していった。
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