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マジメニ
「見ろぉぉぉぉぉぉぉぉ吉開!『はじめまして、好きです。』の第3巻が発売されたぞ!」
創志はそう叫びながら、単行本を天井に掲げている。
幻覚だろうか、彼の頭上にスポットライトが…。
「うるさいなー絹井、私の家で騒いでんじゃねーよ!こっちは『未熟な果実』を見てるんだよ!黙ってろ!」
そう言って私は、また漫画に目を落とす。
すると絹井は、我に返ったのか漫画を持ってる手をおろし、メガネをカチャッと鳴らした。
「全く、俺達は『オタク』だと言うのに、なかなか趣味が合わないな」
「しょうがないっしょ。だって絹井は『少女漫画推し』私は『少年漫画推し』なんだから」
私達には、誰にも知らない秘密がある。
それは私達が、『オタク』ということ。
そして突然私達は、お互いがオタクだということを知ってしまった。
ある日の放課後。
『絹井くん、そろそろ帰りましょうか』
『あぁそうだな』
このときの私は、男勝りな言葉遣いを隠していた。友達にも家族にも。
男勝りな言葉遣いは少年漫画から影響を受けた。
最初は独り言で『〇〇だってばよ!』とか『オス!オラ梓』とか言ってみたが、
実際自分で引いてしまった。けれどいつの間にか、自分の心の中には男勝りな言葉遣いが定着していた。
放課後の教室、その日は絹井と日誌をつけていた。
日誌を付け終わり、私達は戸締まりをし、教室を出ようとした。
絹井が教科書などをしまっている時、私は目撃したのだ。
それは『はじめまして、好きです。』の第2巻に付いている初回限定のクリアファイルだったのだ。初回限定は人気のあまり、全国即完売してしまったという…。
そしてそれを見て私は思わず、言葉を溢してしまった。
『あ、それ『はじ好き。』の…』
はっとしてしまった。今、私…。
『え…』
絹井が驚いた顔でこちらを見た。はぁぁぁぁぁぁオタクだってバレるぅぅぅぅぅぅ(;´Д`)
険しい顔をしながら絹井が私の元へ近寄ってくる。
『えっと絹井くん、これは…』
『知ってるのか、吉開も』
ん?知ってるのか、吉開も?
その言葉ということは…。
文学的表現として『も』というものは複数形…。(なぜか文学の血が騒ぐ)
私は『聞いたことはある』と静かな声で言った。するとその瞬間、絹井の顔がパッと明るくなった。
『そうかそうかそうなのか!!吉開も知ってるのか!!』
絹井がそういった瞬間、私は体の力が抜けた。
そしてその日から私達は、『オタク共有同盟』を結んだのだ。
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