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君は、食堂のおばちゃんと顔見知りのようで、僕の頼みたいものも一緒に頼んでくれた。
君に手を引かれながら座席に着いた僕に、ミネラルウォーターの入った紙コップを持ってきてくれた。
まるで君は母親で、僕はその赤ん坊のようだった。めまぐるしく展開していく物語に置いてけぼりにされたみたいに、目を白黒させていれば君はうどんを食べていた手を止めて、また、くすっと笑った。
「ねぇ、わたしとお友達に、なってくれる?」
「えっ、」
本日何回目かわからない「え」が零れた。僕の口から零れた言葉を拾い上げるように微笑んだ君は「わたしは、はな」と自分の名前を言った。
「あなたは?」
「……そら」
君が名前しか言わなかったから、僕も名前だけ答えた。
「そらって言うのね。すてきな名前」
それから、あっという間に君と仲良くなった。毎日のように食堂やラウンジで話した。
「はな」
「そら」
そうやってお互いの名前を簡単に呼び合えるようになってからは、もっと会う頻度が上がった。それでも、君は絶対にどんな病気で入院しているのかを僕に話してくれなかった。
それ以外の話は何でもしてくれた――それこそ、彼氏がいたとか、好きなアイドルとか、推しの先生は誰だとか、そういうことも――ので、特に聞かなくてもいいだろうと思っていた。
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