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「はい。王都を出ることですし、領主様には報告しなければ」
「屋敷の手配も準備がいいと思っていましたが、まさか屋敷で宿泊することも」
「はい。ユウキ様は剣舞会に興味があるとおっしゃっていましたので、ヴァーリアル領での滞在は予定に入っていました」
「ですが、このようないかがわしい寝間着など着れません。ウィゼール。別の物を」
「しかし、この滞在中にユウキ様とより親密になるためには、こういうものの方が効果的です。彼は地位をあまり気にしていません。ならば男性の気を惹くためには、少々露出が強いお召し物が効果的です。この機会を生かすためにも」
「しかし、わたくしはまだ十五歳です。男性の心を惹くにはまだ早いです」
「ユーディー姫様。お役目をお忘れですか?」
と、扉の前で盗み聞きしていると、そこで会話が途切れてしまった。
お役目? なんのことだろう?
そう首を傾げてしばらく黙っていたけれど、会話の続きが始まらなさそうなのでドアをノックしてみる。
「こんな夜更けに誰ですか?」
と、厳しい口調のウィゼールの声に、思わず慌てふためいてしまう。
「す、すすみません。ユウキです。ユーディーと少し話がしたくて」
短い沈黙のあと、扉が僅かに開くとその隙間からウィゼールの桃色の瞳が覗く。
この世界では夜九時を回ると外が真っ暗なため、警戒心が強い。
ただでさえ手厳しいウィゼールの瞳に睨まれ、目を背けて狼狽えてしまった、
「部屋でしばらくお待ちいただけますか。すぐに支度をさせてお連れいたします」
「は、はい。わかりました」
怒られるかと思った。
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