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驚かせようと思っていたのに――そうがっかりとなる。
「でも、その時は一口しか食することが出来なくて。うれしいわ」
「そのような残念なことが。幻のお茶菓子と言われているのに」
「……ええ」
ん? お姉様の表情が突然暗くなってしまわれた。どうしてしまわれたのだろう。
「それでは、今日はぜひ味わって堪能してください」
一先ず元気づけるつもりでお茶菓子を勧めた。
満面の笑みを浮かべるお姉様を目視して、点てた紅茶をそれぞれのカップに注ぎ、わたしも席についてシフォンを一口含む。
しっとりとしたシフォンはミルク紅茶によく合う。目の前のお姉様とお顔を見合わせてにんまりとなる。この時間は本当に久しぶりだわ。ずっと待ち続けていたのだから心が躍る。
「お姉様。学園生活の話を聞かせてください」
そうお願いすると、お姉様は紅茶を口に含んでからお話を始めてくれた。
わたしはもう何年も、このお屋敷の敷地から出ていない。外の世界は一体どんな所なのかしら?
ワクワクしながらお姉様のお話に耳を傾けた。
王国の外からやって来た男性。
全魔術を使いこなし、魔導士と同等の魔力硬度を持っているらしい。
しかも、双剣の戦姫と謳われているリリー姫様との対決にも勝利したという剣術の使い手であり、女性騎士たちにその剣豪のご加護を、惜しみなく分け与える心優しい人のようだ。
更には、領地地位一位のマルセーヌ姫様とも親しく、一目を置かれているとのこと。
そうお姉様は楽し気に、嬉しそうにお話してくれる。
でも、その人とは――
「よく手紙に書かれているギルという奴隷民族の人ですよね、お姉様」
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