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と、わたしはその人のことを快く思っていない。奴隷民族といえば、元西側の領地の者たちで、昔、内乱を起こしたと学業で習った。しかも、東側へ亡命した奴隷たちと違い、王国の外へ出て行った奴隷たちは白眼という悪魔の瞳を持つ者たちだ。そんな不逞な民族の一人を、お姉様はなぜ得意げにお話しているのだろう?
「ペネシア。今の時代、奴隷民族という者はいません。現に学園では、その言葉は禁止発言となっています」
と、更に庇い始める。どうしてしまわれたのだろう。お姉様も、学業で奴隷民族のことは習っているはずなのに。
「本来奴隷制度というものの行いが間違った政だったのです。この大地に産まれてくる者は、貴族であろうと農民であろうと皆、等しく人なのです。わたくしは学園に行き、そんな大切なことを学びました」
真顔で言うお姉様に首を傾げてしまう。わたしと農民が等しい? おっしゃる意味が理解できない。
そんなわたしにお姉様が悲しそうな瞳を向けてくる。
「ペネシアにも、一度リリー姫様やギル様に合わせてあげたいです」
「リリー姫様? ガーネシリア領の?」
「ええ。二人は友の契りを交わしたのです」
その言葉には驚いてしまった。
友の契りといえば、お互いが対等立場となり、心を打ち溶け合うような仲だと言われている。特別な存在であり、その契りを交わすことは、よほどのことだと聞かされている。そのような契りが、姫様と奴隷民族の間で行われたのだから。
リリー姫様は一体なにを考えているのかしら。理解に苦しむ。
「今はどの領地もギル様を招き入れ、彼に領民権を与えようと躍起になっているのですよ」
「どの領地も? 奴隷民族をですか? ……あ!」
わたしの愚弄な発言にお姉様の表情が変わり、慌てて口元を隠した。
「わたくしはギル様にいろいろと教えられました。彼は本当に素晴らしい人なのです」
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