67人が本棚に入れています
本棚に追加
お母様が扉を開けると、お茶セットの箱を持ったユーディー姫様とウィゼールがお屋敷に入ってくるなり跪いた。そのようなことはお母様との練習の時にはなかったことなので、思わず狼狽えてしまった。
「本日はウィゼールの無理なお願いを聞き入れていただき、ありがとう存じます。今日この日をとても楽しみにしておりました」
「ユーディー姫様、おやめください。お腰を上げてください」
「お気遣いありがとうございます」
そう立ち上がって向けられた笑みは、今まで出会ってきた人とは違い、とてもまばゆく見えた。いつも向けられてきた多くの笑みには黒く淀んだものが纏わりついていた。それは薄汚く、気味が悪くて吐き気を催したくなるものだった。それは七歳の儀式のあとから感じ取れるようになっていた。
でも、ユーディー姫様から見えてくるものは光り輝いていて、暖かく陽ざしのような優しい。お母様から見えているものによく似ていて安心できる。
「本日はペネシア姫様の初めてのお茶会だと聞き、ささやかですが、庭園のお花を摘んでまいりました。気に入ってもらえると嬉しいのですが」
お茶セットを手にしているユーディー姫様がそう言ったあと、ウィゼールが手にしていた花束を手渡してくれる。色鮮やかで摘みたてのいい香りがする。
「お母様見てください。とても綺麗ですわ」
初めてもらった花束に興奮が隠せられなかった。
「本当に素敵です。しかしペネシア。ユーディー姫様へ先にお礼を」
「あ。そうでした。……」
でも、よく考えてみれば、今までお母様としてきたお茶会では、ものを貰うということがなかった。こういう時にどう返せばいいのかしら?
えーと――予期していなかった事態に頭の中が混乱してしまい、ありがとうというお礼の言葉が出てこない。しかも気の利いた言葉も浮かんでこない。更に困惑してしまう。
最初のコメントを投稿しよう!