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そんな戸惑うわたしに見兼ねたようで、ユーディー姫様が合いの手を出してくれた。
「言葉を失うほど喜んでいただけるとは。摘んできた甲斐がありましたわ」
喜ぶ――その言葉に救われた。
「……と、とても嬉しく思います。ありがとうございます」
「立ち話もあれですので、ペネシア、お茶室へ」
「そ、そうでした。どうぞこちらへ」
うまくお礼が言えたことに安堵する間もなく、お母様の言われた通り、慌ててお屋敷の中を案内する。
この時はまだ思い描いていたものとは違い、気が動転していたこともあって、わたしは歯車が少しずつ乱れ始めていることに気づいていなかった。
お茶室に入るとユーディー姫様が調度品を見て称賛してくれる。
「素敵なお茶室ですね。どれも高級そうな品物が揃っています」
「はい。わたしが五歳になった時、お父様が新調してくださりました」
「そうなのですか。最新の流行りものの細工がされていて羨ましいですわ。飾られているお花も家具を引き立てているように彩られていて素敵だと思います」
「ありがとうございます。用意した甲斐があります。どうぞこちらに腰を落ち着かせてください」
お茶会では優雅に気品よく――そうお母様に教わっていた。人前ということに慣れていないわたしは、できるだけ落ち着いて行動するようにと言いつけられていた。
一通り部屋を見て回ったユーディー姫様に席を促すと、お母様がワゴンを押して扉から現れた。
ワゴンからお茶菓子をテーブルに並べる。
「本日はスコーンをご用意いたしました」
「まあ。ジャムがこんなにたくさんあるなんて。なんて贅沢なのでしょう。迷ってしまいます」
苺に桃、葡萄に梨と色とりどりのジャムにユーディー姫様が喜びの声を上げ、得意げになりそうなわたしは自分を制御する。
落ち着いて。優雅に、気品よく。と。
「ユーディー姫様。カップをお預かりいたします」
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