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もし、あそこで試食をしていたら――テーブルの上にはジャムがいくつもある。それを一つ一つ毒見をしている時間はなかったことに気がついた。
ごめんなさい――そう小声で声をかける。
落ち着いて――お母様のその囁きに頷き、カップを拭く布を……
お母様が、本来わたしが立つ位置にいる、ただそれだけなのに、いつもと勝手が違い、いつもの布がどこにあるのかわからなくなってしまった。
オロオロとしている間に、お母様がカップを拭きあげてくれる。
茶漉しはどこだったかしら――とキョロキョロとして、やっとみつけたものを手にしかけて、手を止めた。
その前に茶葉を旋回させなければ。
急いでポットを持って、空いている手のひらの上で三度、回すように揺する。
そうして出来上がったお茶はカップに注ぐと色が濃く、わたしの顔から血の気が引いた。
ちらりとお母様へ目をやると首を振っている。失敗だ。すぐに入れ直さなければ。
「ユーディー姫様。大変申し訳ございません。すぐにお茶を入れ直しますのでしばらく――」
お待ちになってくださいペネシア姫様――と、わたしの謝罪を遮り、ユーディー姫様が席から立ち上がった。
わたしの傍に近寄ってくると、失敗したお茶を見て、何事もなかったかのようにカップを手に取る。
「さすがよい茶葉です。いい香りがしますね。捨ててしまうのは、もったいないですわ」
しかし――そう言いかけたわたしに首を振る。
「ウィゼール」
「はい」
今まで静かにユーディー姫様の背後に立っていた彼女は頷くと、心配そうにしていたお母様の元へ歩み、なにやら話し込むとお茶室から二人とも退室してしまった。
「ペネシア姫様。これをポットの中へ戻してください」
と、手にしていたものを手渡してくる。
一度注いだものを? 不安げにユーディー姫様へ目を向けてみたけれど、にっこりと笑っている。
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