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 桜の木の下。鴉。黒猫。彼岸花。十三日の金曜日。線香花火。  これらは全て手蔓(てづる)にございます。不吉? ええ、ええ、そうでございましょう。人はいにしえより、それを「不吉」と呼んで避けてきたのでございますから、すなわちこれは「不吉」に他ならないのです。  ですがわたくしはこれを吉兆と思うております。清水の流れ、誰もが口つぐみ、静寂の果てに(きこ)ゆる鐘の音。色鮮やかな夏の中の白美は何よりも目を惹きましょう。わたくしはこれが愛しくてなりませぬ。艶やかな手触り、変わらぬ丸めいた形、心弾む声音は木片の打音の如し。わたくしのいたずらめいた指のみならず鳥の気慰みめいた啄みすら許すこれの気の良さは、他の誰にも劣りますまい。  さて、あなた様は今、わたくしの手元に何があるかおわかりになられましたでしょうか? ----- 20220703 文披31題 Day3「謎」 企画主催:綺想編纂館(朧)様(https://twitter.com/fictionarys)
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