化石の空想

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化石の空想

 夢想家の友人に誘われて、彼の家に遊びに行った。 「こちらが当館の一番の目玉にございます……なんてね」  そう言って友人が指し示したのは、部屋の中央に置かれた石だった。ただの巨大な堆積岩だ。割れ方は鋭利で、断面はつやつやと光り、暗灰色をしている。 「泥岩、いや頁岩(けつがん)か……」 「あのあたりをよく見たまえよ」  何が特別なのかさっぱりわからない私へ、友人は岩石の一部を指差した。 「窪みが人の顔に見えるだろう? これは人魚の化石なのさ。海辺で見つけてね。ほら、下部に魚の尾の化石が薄らと見える」 「見たところサケ類の尾のようだが」  私は彼へと視線を向け、そして彼の横顔を見、 「……君がそう言うのならそうなのだろうね」  と呟いた。 ----- 20220806 Twitter300字ss お題「石」 企画主催:Tw300字ss様(https://twitter.com/tw300ss)
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