名月

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名月

 夜、どうにも眠れなかったので巣穴の外に出てみたら、まんまるお月さまがどぉんとお空にいらっしゃった。 「あいや、旦那、今日はずいぶんとべっぴんさんじゃァないかい」  ひょこひょこと長い両耳を驚きで動かせば、お月さまは「ああ、ウサギのワカちゃんじゃないか」と懐かしい呼び名で呼んでくる。 「今日は中秋の名月ってやつだよ」 「ほぉんなるほど、今日はべっぴんさん確定の日かね。まあ旦那はいつだって美人だがな」 「わかってるねえ。でも今日は特に美人だよ。何たって満月さ」  お月さまはご満悦な様子でにこにこ笑う。金色の光がテカテカと空を照らす。暖かくはないが眩しいそれは、花の一つくらい間違って咲きそうなほどだ。 「しっかし残念だなァ。うちの子らはみィんな寝ちまった」 「じゃあ明日はどうだい?」 「明日は中秋じゃなかろ。それにちいとばかし欠けちまう」 「大して変わらないさ。私は常に美しいからね」  お月さまは体をくるりと転がした。丸すぎて誰もそのことに気付きやしないだろうが、確かにころりと一回転した。 「明日、みんなで見においで。ここで待ってるから。なに、今日が中秋の名月だって言うのなら、きっと明日も中秋の名月さ」 「旦那が言うなら、確かにそうさなァ」  風が吹いてススキが揺れたので、合わせて耳を揺らしてみた。「笹の葉、さーらさら。ススキもウサギも、ゆーらゆら」とお月さまがご機嫌とばかりに変な歌を歌った。 ----- 20230930 お題:「きっと明日も」 (https://kaku-app.web.app/p/9JLIt9TadQsumV7gGT8N)
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