始まりはいつも、ここから

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始まりはいつも、ここから

 そのひとはいつも、近所の神社の境内の中にいた。 「やあ、坊」  坊と呼ばれる歳でもなくなったのに、そのひとは相変わらず私のことをそう呼んでくる。十代後半頃から気恥ずかしさと不満とにふてくされたものだが、今や二十代すら名乗れない歳だ、突っ込む気さえ起きなくなるというものである。  幼い頃の私がこのひとに尋ね、それに律儀に答えてもらったところによれば、どうやらこのひとはこの神社の関係者らしい。なるほど確かにいつも白の上衣に水色の袴を履いている、と当時の私は素直に納得した。 「結婚するんだ」  とわたしは告げた。 「相手のご両親の家の近くに住むことになった。今日、引っ越す」  最後の日なのだ、とわたしは思う。  高校の入学式の前も、部活の大会の前も、大学入試の前も、定期試験の前も、企業面接の前も、入社式の前も、初デートの前も、私はこの神社へと足を運んだ。何かというとここに来るのが私の定番だった。それが終わる。 「終わるんじゃない、始まるのさ。坊がここに来る時はいつもそうだったろう?」  まるで私の胸の内を読んだかのように言うので、そうか、と私は素直に納得した。  なら、今回もきっと「始まり」なのだろう。 「……行ってきます」  言えば、そのひとは数十年来変わらない顔で「行ってらっしゃい」と歯を見せて笑った。 ----- 20231021 お題:「始まりはいつも」 (https://kaku-app.web.app/p/3bMJcQOIyhk0HYiF8wGC)
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