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葬儀場では、あまり公にしたくないという父ちゃんと弟の英雄叔父さん、親戚だけが集まり、荼毘にふせばいいと決めていた。
三年前の夏前から始まった徘徊は、何度かおお騒ぎになり近所にも迷惑をかけた手前、その方がいいと決定したのだった。
それでも何処からか聞きつけたように集まって来る人たち、その中には一馬やはるみの家族もいた。
あちこちで頭を下げる一馬の母親と叔父さんの周りにも人は集まる。顔を少し膨らませ、鬱陶しそうな顔でそれを他人のように後ろから見る一馬。
俺はそれを見て、初めて一馬に出会った日を思い出した。
あの日も、こんな顔をしてたような気がしていた。
入学式。
ぶすっとする男子の後ろでにぎやかな女性の声がしていた。
後で知ることになるのだが、一馬の母ちゃんが保険勧誘のために名刺とパンフレットをこの時とばかりにばらまいていたのだった。
母ちゃんもいやいや受け取っていたのだが名刺の名前に気が付き声をかけた。それが昔の同級生だと知って歓声が上がる。
まったくいい年してキャーキャー何騒いでんだか。
わかるような気がした、うるさい母親、だから関係ないような顔をしていなきゃいけない、つらいね、なんてその時の印象はそれくらいだった。
でも、友達ということもあってか、母ちゃんは勧められるままに保険に入った。まあその後俺がけがをしたから、もう、大変でさ、よかったという母ちゃん。まあ、俺は、その後走れなくなってバスケットボール部から身を引いた。
丁度その頃、一馬も怪我で、ジャンプが出来なくなり同じ病院に通っていたんだ。
一馬がバスケから足を洗ったのを聞いたのはこの時だ。
子供の見舞いに来たんじゃねえのかよと思うほど、一馬の母ちゃんと話ばっかりしていた。丁度、前の年、爺ちゃんが死んで、ばあちゃんが痴呆になりかけていた頃で、母ちゃんのはけ口は、話を聞いてくれる、一馬の母ちゃんだけだったんだよなとその頃を思い出していた。
ばあちゃんの徘徊、それに力を貸してくれたのも一馬の家族だ。
あの時は本当にありがたかったな。
「ばあちゃんがいなくなったって?!」
そう言って家に走り込んできた一馬と叔父さん。
高校一年、九月の残暑のきびいしい日だった。
気が動転していた母ちゃんが電話をした相手が一馬の母ちゃんだ。消えて半日以上になる、最後の目撃者は、ここから五百メートルほど離れた、同じ農家をしている鍋島さんのじいちゃんだ。
朝みんなが学校や出勤した後外に出たのだ。
気が付いたのは典子、学校から帰ってくるとばあちゃんがいなかった。
「三時半だよ」
それから、俺が帰ってきた五時十分まで近所を探していたんだという。
瑛二より俺の方が帰りは早いからそれから探して鍋島のじいさんに聞いたんだ。国道を北のほうに歩いていったという。
「典子電卓、瑛二、なんか書くもの!雄一スマホ出せ!」
一馬は紙に何か数字をかきはじめる、見てわかった、時間だ、そして、詳しい時間をかきこむと電卓を叩きはじめた。
「さほど早くないから、それほど遠くにはいかない、ただ痴呆だという事を考えれば、どこをどう歩くかわからない、だから、国道を中心に、範囲はこの辺、一つ、疲れてしゃがみこんでいる可能性がある、その場合、どこに座り込んでいるかわからないから、しっかり見て歩いてくれ」
そう言うと、みんなに水を持たせた、それは脱水症状なんかになっている可能性があるということでだ。
そして北の国道を中心に扇状に目星をつけ、俺たちは探しに出たんだ。
一時間もかからないうちに発見、知らない人の家の縁側に座り込み寝そべっていた。近所の人たちも探してくれて、助かった。
お経が始まった。
「ばあちゃん、よかったな、あの時見つけてもらって」
俺は、写真を見て三年前を懐かしんでいた。
俺は学校も自由登校になっていたし、集まる日は決まっていたから、母ちゃんにどうしてもと頼まればあちゃんの付き添いに来た。
完全介護だがここ数日、ちょっとやばいということで、俺は夜の時間をかってでていた。
でも今日ばかりは勝手が違う、学校に電話があった。母ちゃんから、慌てなくてもいいから、出来るだけ早く病院へ行ってほしいと言われて、やってきたのだった。あくびをしながらいつものようにしていた。
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