居眠りコナンはシャーロックになれない12 友情と開かずの金庫―踊る人形より

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 時間はそろそろお昼だ。飯はどうしようかな?それより俺の代わりにできてんのかよと、抜け出してきた分、卒業写真の事が気になっていた。売店でパンなんかを買った。  行き交う人たちは皆介護をしに来る家族たちで、三年かよった病院は見慣れた顔の方々ばかりとなっていた。俺を見ると受験はどうだったという話をしてくる。 何とかと言いながらもくだらない話を聞いては相づちを打っていた。 みんな介護で霹靂しているから、おしゃべりぐらいで気を紛らすしかないんだ。  ランドリルームで洗濯機を回しながら、俺はそこでパンを食べながらゲームをしていた。おむつはしているものの、パジャマなんかは洗濯しなきゃいけない、もうほとんど浴衣でばかりいる、着替えが楽なんだ。 時計は十二時を回っていた。  パタパタと足早に歩く人、ああここにいたと俺の顔を見て言う看護師さんに立ちあがった。 ちょっといいと呼ばれ病室に行くと、先生がいた。 お昼時、食事の用意をする人が異変に気が付いたのだ。 俺は寝ていると思ったから静かに、ばあちゃんの周りを片付け着替えを洗濯しに持って行ったのだが、なんか様子が違う。  口から出ているのはヒュー、ヒューとまるで口笛を吹いているような音。 「中村さん!梅さん!聞こえますか!」 でかい声で呼ぶがピクリとも動かない。 先生が胸を開き聴診器を当てた。 先生は何かを看護師に言うとバタバタとし始めた。 先生方が移動し、一人の医師が俺に頭をペコリと下げた。 「ご両親とは連絡がつくかな」 俺にはピンときた。 「急いだ方がいいですか?」 「そうだね、時間はあまりなさそうだ」 ありがとうございますと頭を下げ電話をしに廊下へ出た。  延命治療はしないでほしい。  それは、ばあちゃんが残した言葉それと介護に疲れた両親や叔父さんたちと決めた事だった。 皆が来るまでの時間が妙に長かった。 点滴が始まり、酸素吸入が始まる。部屋も、うつしますと個室へ運ばれた。 俺は動きがあるたびにスマホを持って外に出たんだ。  しんとした廊下が嫌に寒いような気がした。部屋では機械のピッピッという音しか聞こえない。 典子と瑛二、叔父さんたちも来ていたから、みんなが集まった。 まだ温かい体から、いろんなものが外されていく。  孫たちがばあちゃんの手を握り、顔を擦る。最後のぬくもりを感じ取るために、みんなが手を伸ばす。 「十四時三十六分、ご臨終です」  ばあちゃんが死んだ。  そして俺の高校生活も終わるんだなと思ったのだった。
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